チキチキ!火種だらけの映画評

映画のネタバレ記事が多いと思います。私の映画の趣味をやさしい人は“濃い”といいます。

妻を取り戻せ!ラブ・コメディ映画「ラブ・アゲイン」が王道映画として優れていたので、ちょっくら分析してみた。

 「ラブ・アゲイン」観ました。

 本当に計算されつくした脚本でした。ネタバレ全開で書くこのレビューを読む前に一度、ご鑑賞することをお勧めします(一番の核心には触れないけど)。

 


『ラブ・アゲイン』予告編 - YouTube


■ あらすじ
 冴えない中年オヤジのキャル(スティーヴ・カレル)(40代)は、突然妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)に三行半(離婚)を突きつけられる。

 妻 は自分が同僚と浮気していることを告白、しかし「私が浮気したそもそもの原因はキャルにある」と妻に責められる。耐え切れなくなったキャルは家を出た。


 別居を始めてからキャルはバーに入り浸った。「妻が浮気し、離婚を迫られている」と大声で誰とかまわず愚痴り続ける毎日だ。


 ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)(30代)はナンパ師だ。狙った獲物は逃さない。バーで飲んでいる女性を見つけては声をかけ“お持ち帰り”し ている。

 ただ彼も失敗する。つい最近、弁護士の卵のお堅いハンナ(エマ・トーン)に誘いを断られている。「去るものは追わない」。
 彼はそんなことは気にも留めず、今日も獲物をあさっている。


 そんなジェイコブが、何故か彼の狩場に似つかわしくない中年オヤジに声をかけた。「妻に離婚を迫られているんだって?」。驚くキャルを頭の上から足のつめ先まで眺め、ニヤリと笑う。
 「俺が女性をモノにするコツ教えてやろうか?」


■あらすじへの補足
 この映画は群像的に物語を展開させています。あらすじではメインプロットの部分だけを書いたのでちょっと補足が必要です。


・中学生3年のロビー(キャルの息子)(13歳)も主人公の一人です。彼を主人公にした場面では、ベビーシッターのジェシカに彼が恋をする様を描きます。
・ハンナ(エマ・トーン)(20代半ば)を主人公にした場面では、彼女が今までの恋に見切りを付け、新しい恋を見つけるところを描きます。
・ キャルとエイミーの子供たちのベビーシッターのジェシカ(17歳)を主人公にした場面では、彼女がロビー(キャルの息子)の求愛に迷惑する一方で、キャルに淡い恋心を抱いている様が描かれます。
・ ついでにいうと浮気相手のデイヴィッド(ケビン・ベーコン)はエミリー(キャルの奥さん)に求愛し関係を持つが、完全に略奪はできていない様子が描かれています。


■ メインプロット分析&解説
 この映画のキーワードは「魂の伴侶」です。登場人物たちは「魂の伴侶」という存在を求め行動するわけです。
       ◇
 メインプロットの部分のキャルの場合を例に挙げて説明します。


□主人公が物語に関わる
 彼は「魂の伴侶」であったはずのエミリーに三行半を突きつけられます。「魂の伴侶」だと思っていた人物が「魂の伴侶」でなかった彼はどうすればい いのかわからず嘆くわけです。なにせ15歳で初めて付き合った女性と結婚しているゆえ、本当の「魂の伴侶」の探し方なんて知るわけもないし、「探すべき だ」ということすらわかっていない。


□主人公が新しい扉をあける
 そこへ「魂の伴侶」を探すことに関してはプロ(でも一度も見つけたことはないよ!)のジェイコブが現れ、彼のナンパ術と服のセンスを指南。見事キャルは立派なセンスのいい“やりチン”になるわけです。これで「魂の伴侶」も見つかるはず!


□新しい扉をあけた報いを受ける(善い面&悪い面)
 立派な“やりチン”になったキャルは、自信がつき格好良くなりました。息子の学校での面談で再開した奥さんもキャルを気にしています(善い 面)。たぶん最初にキャルがナンパしてヤリ捨てた女性が、教室で待っている息子の担任でなければここで映画は終わっていたでしょう(悪い面)。奥さんのエ ミリーは浮気相手のもとへ。


□本当に見つけるべきものを見つけ、手に入れ…
 奥さんに愛想をつかされたと思われたキャルだが、なんだかんだ言って奥さんのエミリーはキャルが気になるようです。そのことに気づいたキャルは 「自分の見せたくない面」をなんだかんだ言っても含めて全て受け入れてくれる奥さんが「魂の伴侶」であると確信します。エミリーを、「魂の伴侶」を手に入 れるために行動にでるが…

     ◇
 ここまでは物語の作り方の基本をなぞっているのですが、この映画の優れているところはキャルと同じように「主人公が物語に関わる」「主人公が新し い扉をあける」「新しい扉をあけた報いを受ける(善い面&悪い面)」「本当に見つけるべきものを見つけ、手に入れる」という過程を同時進行で他の登場人物 がこなしていることです。
     ◇
 この後、メインプロットに平行して積み上げていたサブプロット①ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)、②ハンナ(エマ・トーン)、③ロビー(キャ ルの息子)、④ジェシカ(ベビーシッター)、⑤デイヴィッド(ケビン・ベーコン)が文字通り集結します。そして一気にクライマックスへ持っていくのです。


■「時間短縮」「印象付け」を同時にこなす技術が優れている
 この映画は少なく見積もっても6つの物語が同時進行しています。これを2時間に収めたことがまず優れています。下手な作り手だったら3時間超えの超大作になっていても、おかしくありません。


 時間短縮のために何をしたかというと
・三角関係、四角関係にすることで、同時に語れる部分を増やす
・映画的な見せ方で説得力を持たせた登場人物に台詞でチャチャッと説明させる
とこの二点のみ。


 1つ目は登場人物の関係を見ていただければわかる通り、ドロッドロです。キャルは奥さんをデイヴィッド(浮気相手)と奪い合い、ジェシカに人知れず愛されているロビー(キャルの息子)の恋敵なわけです。キャルの物語を進めると自ずと彼らの物語も説明できてしまいます。


 2つ目ですが、例えば冒頭のシーン。

食事に来たカップルたちがテーブルの下の足が映されます。

 カップルは足を伸ばしているので、カメラにはお互い の足が交差する様が映されています。たぶんお互い心を許して、リラックスして食事をしているので、足を伸ばしているのだと思います。カメラは何組かのカッ プルを捉えながら、ゆっくりと奥に進み、一組のカップルの足元を捉えます。

 あれ?足と足の距離が明らかにさっきまでと違うぞ?とカメラが彼らの顔の捉えた 後に奥さんのエミリーは「離婚して。」と短く切り出します。


 また、ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)もそうです。

 彼がモテモテである。キャルが教えを請うべき人間である。という説得力を彼の再登場の シー ンに映画的に集約しています。

 「スローモーション」でのクドクドの登場ですが、明らかにキャルと違う各上の人間ということを映画的に説明しています。

 その 後にキャルが履いているニューバランスを、暴言を吐いてブン投げても観ていて嫌な気分にならないのです。


 ジェイコブとキャルの関係性が後半に変わります。そのことも映画的に説明しています。前半では「頬ビンタ」はジェイブがキャルにしていますが、関係が変わってからはキャルがジェイ部に「頬ビンタ」しています。

 きちんと伏線を張って説明しているので、クライマックスが粋に思えます。

 

 行動と台詞を同時にこなすことでかなりの時間短縮になっています。また、結果としてテンポがよくなり、時間を感じさせないと いう利点もあります。


■ゲームクリアの設定と話のもって行き方が優れている
 ここでもまたメインプロットのお話だけをします。キャルとジェイコブの恋愛の対比です。
 この映画の中盤以降にゲームクリアはホームランを打つ(魂の伴侶を見つける)ことだとわかります。


 キャルは15歳でエミリーと出会い、10代で結婚しています。思いっきり振ったバット(伝えた自分の想い)がたまたま飛んできたボール(相手の想い)に当りました。
 しかし20年後、デイヴィッドという敵が現れ新たなゲームが開始されたときには、バットを思いっきり振ることしか知らない初心者です。


 一方、ジェイコブは飛んできたボール(相手の想い)を打ちかえす高い能力を持っています。案打率(お持ち帰り率)は高いのですが、何せこのゲームはホームランを打って何ぼなもんで、ミート率がどれほど高かろうが、外野手の頭を超さなければ永遠にあがりはこないわけです。


 そんな全く違う能力を持った二人が出会い、師弟として接するうちに、お互いに成長する。そして「魂の伴侶を見るける」というホームランを打つ。

 世の中に腐るほど存在しそうな話ですが、前述のように映画的描写と台詞を用いて情報を出す順番を工夫すれば、こんなに新鮮なものになるので す。


■まとめ
 たぶんこの映画を「全く観たこともない、新しいものか」と問われた場合「そんなことはない」と答えます。

 どこかで観たことある描写、どこかで観た ことのある物語です。

 でも、それを作り手が丁寧に組み合わせ、丁寧に描写することで、こんなに新鮮で、面白い映画になりました。僕はそれを讃えたい。